第一章

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 航空機格納庫の広々したかまぼこ型格納庫の隅、暗幕で四方を六畳ほどに囲った部屋には、小さな木製の机とパイプ椅子が二脚、それに大容量の背嚢とハンモックが、それぞれ二つずつ置かれている。床には狭い通路を除いて弾薬ケースが無造作に並べられ、所々には未使用の薬莢が床を転げ、バラバラで信管が抜かれた手榴弾が放置されている。  とても綺麗とは言い難く、また安全とは言えないその天幕のことを、デルタとミーシャもとい桜花は部屋と呼ぶ。かまぼこ型の格納庫に設けられた、ささやかな女性専用の個室なのだ。  バグダード国際空港の半分以上を占める大日本帝国軍の徴用施設は、多く陸軍の航空機や人員が占領している。対テロ戦争を名目に中東に居座っていたアメリカ軍の大半が撤退した2013年秋。それを見計らったかのように発生した、イスラム系武装組織による日本人旅行者拉致、日本国内におけるテロ行為により、アメリカと取って代わる形で日本は一部組織への対テロ戦争を展開した。  イスラム系武装組織全てを敵に回すのではなく、飽くまでもテロ攻撃を教唆した者とその周囲組織への攻撃だ。関係が薄い、或いは日本へのテロ行為を否認する組織への攻撃は自衛行動以外では厳禁され、目的の組織を維持不能の状況まで徹底的に攻撃する。それが日本の対テロ戦争だった。  その名目のもと、表向きイラク政府からの提供と言う形を取り徴用したバクダード国際空港は、再熱し始めた中東関係により、一時は回復の兆しを見せた航空便の発着数が日を追うごとに減少している。
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