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― 何をそんなに不機嫌な顔をしているんだ。
散らばった荷物を片付けながら、いかがわしく聞いてきた。
― この顔は元からだ。
― そうだったな。
適当に掛けてくれと言われ、これまたごてごてとした椅子に横向きに座った。テーブルに肘をついて見ると、鏡台の前でテマリが髪を解かしていた。いつもなら4つ縛りを解くたび気にしていた外はねが、雨に濡れ、今度ばかりはクシに従順だった。そしてそれらも結局、テマリを艶めかしく演出させているのだ。
テマリが俺の視線に気付き、
― …なんだ。
― 別に。
ぶっきらぼうな返事に理解しかねない顔を浮かべたまま、テマリは窓の外に視線を変えた。木の葉の雨は急に降ってくるんだな。と呟く。
― 梅雨の季節だからな。
― つゆ…?
あぁそうか。こいつは梅雨を知らないのか。
― 夏入りにある、雨の時期のことだ。
― なんだ。それでなくても雨が降る気候を持っているくせに、雨の時期まであるのか。
テマリが驚いたように言い、羨ましすぎると付け加えた。俺は苦笑する。
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