ブラックコーヒー

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 テマリがごそごそとポットの周りの引き出しをあさる様子を見て、あいつは普段ブラックのまま飲んでいるのだと知った。こんなに苦いのに。『おいしい』と思えるのだろうか。俺には分からなかった。俺は、自分のコーヒーを睨みつけた。  と、急にテマリが ― お、あったぞ。 うれしそうな声を上げた。顔を上げると、これみよがしにシュガースティクを持っていた。 ― ミルクは冷蔵庫かな… と、再び探しに行くテマリ。俺はカップを手にし、言った。 ― いらねぇ。 え?と俺を見るテマリの前で、俺はコーヒーを口にした。さっきよりも多めに含む。すぐに慣れない苦みが口中に広がったが、気にしない素振りで飲み続ける。テマリは呆れたような、理解しかねないような顔つきで見ていた。  飲み切ったカップをテーブルに戻すと、小さな達成感が俺の中でうずいた。俺らしくもなく、何かに勝った気分に自信を持った。  しかし、テマリは小さくため息をつくと、 ― そんなにコーヒーをがぶ飲みする奴があるか。 と、自分のコーヒーを優雅にすすってみせた。うるせぇと反抗してみたが、やはり目の前の光景を見せ付けられると、俺の小さな誇りなど呆気なく消えてしまった。  俺はガキだった。
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