30人が本棚に入れています
本棚に追加
テマリがごそごそとポットの周りの引き出しをあさる様子を見て、あいつは普段ブラックのまま飲んでいるのだと知った。こんなに苦いのに。『おいしい』と思えるのだろうか。俺には分からなかった。俺は、自分のコーヒーを睨みつけた。
と、急にテマリが
― お、あったぞ。
うれしそうな声を上げた。顔を上げると、これみよがしにシュガースティクを持っていた。
― ミルクは冷蔵庫かな…
と、再び探しに行くテマリ。俺はカップを手にし、言った。
― いらねぇ。
え?と俺を見るテマリの前で、俺はコーヒーを口にした。さっきよりも多めに含む。すぐに慣れない苦みが口中に広がったが、気にしない素振りで飲み続ける。テマリは呆れたような、理解しかねないような顔つきで見ていた。
飲み切ったカップをテーブルに戻すと、小さな達成感が俺の中でうずいた。俺らしくもなく、何かに勝った気分に自信を持った。
しかし、テマリは小さくため息をつくと、
― そんなにコーヒーをがぶ飲みする奴があるか。
と、自分のコーヒーを優雅にすすってみせた。うるせぇと反抗してみたが、やはり目の前の光景を見せ付けられると、俺の小さな誇りなど呆気なく消えてしまった。
俺はガキだった。
最初のコメントを投稿しよう!