鼓動

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「帰り道の公園で、口論してる声が聞こえたので思わずシャッターを押しました。」 「……海斗を売ったの?」 「初めの目的はそれでした。以前、スクープ撮ってみろとか言われたので。 …でも、あろうことか今まで撮った中で一番の出来だったその写真は、海斗さんの気持ちが見えてくるようで。 ……持っていけませんでした。と言うか、持っていくのが嫌だった。海斗さんの思いを売れません。」 どうせ、隠していてもバレるだろう。 それに、大翔の言いたいことも分かる。 大切な友達でパートナーの海斗。 守ろうとしてるだけのこと。 「…これ、いつの写真?」 「小雨の日だったから…先週の木曜日ですね。」 それを聞くと、いつものニコニコ顔に戻った大翔。 「そうか。」 「信じるんですか?」 「信じるよ。綾瀬ちゃんは嘘は言ってないな。」 …驚いた。 確かに嘘は言ってないけど、…この写真は海斗が苦しんでいる原因が私かもしれない事実だ。 その写真を持って出版社に行けば、週刊紙や新聞でスクープ記事として扱われるのは必至。 現に、この写真の直ぐ後に、破局報道されているのに。 「さて。そろそろ行くよ。ご馳走さま。」 「…そうですか。」 呆気なく話が終了したことにも驚いた。 あまり突っ込んで話を聞かない人だ。 …それだけ洞察力があるってことだろうけど。 「そうだ。明日、昼前に時間が空いてるよ。事務所来る?」 「……………」 ……来た!やっと!カメラ教えてもらえる! 「行きます。」 「睡眠時間、削っちゃうけど?」 「大丈夫です!」 「ハハッ!決まり。明日やろうな。じゃ、俺行くな。海斗見ててくれてありがとう。」 大翔の背中を見送った後、もう一度海斗の部屋へ行き、状態を見て安堵する。 ハチミツ漬けを冷蔵庫に置き、テーブルに一言添えたメモを残して部屋を後にした。
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