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そして、ふと考える。
今までお世話になってきた会社や長野さん。
ましてや、私は、編集長に拾われて仕事をしているようなもの。
大翔に弟子入りしたいのは本当だけど、すべてを捨てて、大翔の許に行けるか?と言われると、やはり迷いが出てくる。
そう考えれば、私の本気度まで自分で疑ってくる。
迷いが捨てきれない分、まだまだ本気じゃないのかもしれない。
大翔が、ああいう風に言ったのがよくわかる。
「綾瀬?何ボーっとしてるんだ?」
「あ。すみません。今行きます。」
鞄の中からノートを取り出し、長野さんが隣人を捕まえて取材が始まったのを見て、私は、質問と受け答えをその場でノートに書き込んでいく。
聞き逃したものがないように、ボイスレコーダーに吹き込みながら。
「綾瀬、どう思う?」
「動機がありすぎますね。家族も友人も、会社関係も。すべてがグレーで気持ち悪い感じです。」
「お?結構理解してきたじゃないか。」
取材が終わって、帰社途中の車の中で事件のことを語り合う。
これは意外と大切で。
帰社して、起きたことや見たものを文字で分かりやすく表現するのに役立つ。
「予想じゃ、早期解決だな。」
「本当ですか?」
「多分な。どう見ても、怪しいのは限られた数人だけだからな。」
長野さんがそう言って4日後、犯人は捕まり、本当に早期解決した。
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