鼓動

26/83

6686人が本棚に入れています
本棚に追加
/535ページ
「編集長、一言だけ言ってもいいですか?」 「どうぞ。」 「綾瀬、お前に大翔の傍でカメラを習うなんて無理だ。やめておけ。」 「……え……」 思いもよらない長野さんの言葉は、私の心を突き破った。 「そんなんで迷うくらいなら、初めから本気じゃないだろう。俺がまた教えてやる。俺の傍で働いてればいい。」 「教えてもらいたいのは山ほどありますよ!でも、大翔の写真は凄いんです!海斗も!」 「俺が一番知ってるよ。でも、お前には無理だ。」 「どうしてですか!」 「カメラへの愛情が足りないからだ。」 「……愛情……?」 「出版社にいるだけじゃ、カメラマンとしての才能は開花出来るものか! 単独でモデルを撮っても、なかなか上達出来ない。 そんなときに舞い込んだオイシイ話があるのに、飛び込めずに迷っている。 それでカメラが好きだと?ふざけるのも大概にしろ!」 バァァァン! 机を叩いて怒りを露にした長野さんの行動に、身体がビクッとなった。 「胸くそ悪い。編集長、俺は失礼しますよ。」 長野さんは万券を置いて、居酒屋から出ていってしまった。 あんなに風に怒る長野さんを見るのは初めてで。 声も出せず、反論もできず、ただ、呆然と出入り口のドアを見ることしかできなかった。
/535ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6686人が本棚に入れています
本棚に追加