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曲が始まると、二人は私より一歩分下がって動き出した。
大翔も海斗も、若干ニヤニヤしながら私を見ている。
「どうした?踊れないの?」
「この部分はダンスなしでした。」
ちょっとムッと来たけど、その間、忙しく動く二人のダンスを覚えていく。
そして。
「……へぇ。」
「スゲェ…綾瀬ちゃん!」
覚えたてのダンス。ステップを間違えないように。
顔の傾き、足の角度、
ターンのタイミング、手の形。
いろんなことを、新しい記憶の中から見つけ出して踊ってみる。
間奏中も動いてる二人。PVとやらは何の動きもなくて、その場で止まる。
「綾瀬!動きを真似てみろ!」
「俺たちの動きについてこい!」
見れば、大翔も海斗も、いつの間にかニヤニヤ顔が消え、真剣な表情になっていた。
「はい。」
返事をすれば、さっきまで後方だった二人が、逆に一歩分前に出ていた。
ダンスというものは、後ろから見ていく方が覚えやすい。鏡で見るのは、動きや仕上がりの確認なのだ。
二人の動きを真似ながら、鏡でチェックを入れる4つの瞳を感じる。
「綾瀬!そこはバックステップだ!」
「半ターンしてジャンプだろ!」
「はい!」
撮影の時の雰囲気。
大翔が。海斗が。
私に本気に接し始めた。
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