鼓動

48/83

6688人が本棚に入れています
本棚に追加
/535ページ
レジで会計をしてるとき、 「あの女、本当に使えない。海斗のこと好きなくせに。」 そんな声が聞こえてきた。 あの女とは、多分私のこと。 …どこをどう見たら、私が海斗を好きって結論になるんだろうか? 最後の最後まで、頭のイタイ人だな。 本気で人間不信になりそうだし。 芸能界ってひとくくりにしちゃいけないのかもしれないけど、ちょっと怖さを感じる。 これから、片足くらいは突っ込まなきゃいけない世界。 (これもすべて、カメラのためだ。) カメラのためなら、たとえ蕀の道だろうが、そこを意地でも踏み潰してやる。 長野さんや、編集長の思いを無駄にすることはしない。 新幹線で東京まで帰り、部屋に着くとカメラを取り出して外へ出た。 すっかり暗くなった空。 次々と色を変えては、綺麗なアーチを描く公園の噴水にピントを合わせ、写真を撮っていく。 大きな木。 小さな花。 質感のよいベンチ。 目にするもの全てが被写体になる。 明日、段ボールが届けば、DVDをずっと見る生活が待っている。 少しでもカメラに触れていたい。 少しでもいい写真を撮りたい。 これからの生活に、大きな不安と小さな希望が入り雑じり、写真を撮ることで落ち着きを取り戻す。
/535ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6688人が本棚に入れています
本棚に追加