ぬくもり

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その後、真桜を見送るため俺は玄関口に立っていた。 外はもうすっかり日が暮れていた。 「真桜、こんな時間までごめん。嫌じゃなかった?体は平気?」 「うん、大丈夫。栄太郎はいつも私に触れるとき、壊れものを扱うように触れてくれる。だから栄太郎に抱かれたこと後悔なんてしない。」 「そうか…。」 「あのね、あの時代で私が初めて総さんに抱かれたとき、私、声には出さなかったけど心の中で栄太郎のこと考えてた。」 「『栄太郎助けて』って。」 「…まさか、総のやつ真桜のこと無理やり抱いたの!?」 栄太郎は拳を握りわなわなと震わせる。 「あとで総のこと殴っておく!!」 「やめて!今はちゃんと愛があって抱いてくれたって思ってるから。」 「……真桜、ごめん。あの時代で真桜を残したまま死んじゃって。」 「生きていたら今の俺と真桜との関係、少しは違っていたかな。真桜は俺だけのものになってたのかも。」 「……私が言いたいのはね、栄太郎が思っている以上に私は栄太郎のことが好きだったってこと。」 「…真桜……」 「何?」 俺は思わず『愛してる』と言いそうになったけど、我にかえって言うのを止めた。 「いや、何でもない。」 すると真桜は優しく俺の瞳を見つめて言う。 「じゃあ、栄太郎……さよなら。今度会うときは栄兄さんとだから栄太郎とはここでお別れ。」 「さよなら……真桜。」 俺が断腸の思いでそう言うと、真桜は俺を見つめていた瞳を逸らし、ゆっくり振り返りドアノブに手をかけた。 俺はその手をとっさに掴んだ。 そして驚いて振り向く真桜を強く抱きしめた。 「真桜…俺のこのぬくもり忘れないで。俺も真桜のぬくもり一生忘れないから。」 「……うん、忘れない。」 真桜がそう答えると、俺は真桜を腕の中からそっと放した。 「じゃあ、栄太郎……バイバイ……。」 「うん……。」 真桜は最後に優しく俺に笑いかけるとドアを開けて出て行った。 パタン…… 俺は真桜が出て行った玄関のドアにもたれかかってひとり泣いた。 誰かを想って泣いたのはこのときが初めてだった。 母さんが死んだ時すら、俺は総の兄だから強くあろうと思って泣かなかったのに、今は涙が溢れて止まらなかった。 玄関の外で真桜も泣いていたなんて、そのとき俺は気づかなかった。
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