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私は玄関のドアを閉めた後、その場にしゃがみこんで声を殺して泣いた。
栄太郎……栄太郎……。
離れたくないよ……
本当は一緒にいたい
もっと触れて欲しい
もっともっと抱きしめて欲しい
もっと栄太郎を感じていたい……。
栄太郎、大好きだよ……大好き……。
『…真桜…愛してる…愛してる…ずっと……。』
私を抱いたとき、栄太郎はそう言ってくれた。
でもその口からその言葉を聞くことは二度とない。
「総さんのことだけ考えなきゃ……私がそう決めたんだから……。」
私はバックの中から栄太郎から貰った櫛を出した。
そしてその櫛に口づけをした。
「栄太郎……私も愛してる……ずっと……。でも、もうこの櫛と一緒に心の中にその言葉は閉まっておくね。」
そう言って立ち上がり空を見上げた。
もう空は真っ暗で星が見えた。
「栄太郎の瞳みたい……どこか儚げで少しさびしそうで、でもどこまでも優しく私を見つめる栄太郎の瞳……。」
そう思うと涙が溢れて星がぼやけて見えたけど、私は気づかないふりをして歩き始めた。
気づかないふりをしても星は確かにあるって、存在するって…それが事実だったのに。
その事実を隠し通すことなんてできないのに……。
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