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俺は詩織のことよりも真桜のことを考えていた。
…真桜……愛してる……愛してる……。
大きな声でそう言えたらどんなに楽だろう。
俺の心の中はこんなに真桜でいっぱいなのにもう真桜を抱くことは二度とない……二度とないんだ……。
その時だ。運悪く、そこに総と真桜がやってきた。
「兄さん!!詩織さんとケンカしたの!?詩織さん泣いてたよ!!」
「ちょっと怒らせた。別れを切りだしたらああなった。」
「別れを切りだしたって……つき合い始めたばかりなのに……。」
「ごめん、心配かけて。」
「…兄さんほっぺた真っ赤に腫れてるよ!ちょっと待ってて。冷凍庫から氷持ってくる!!」
総はそう言って下の階に下りていった。
「栄兄さん、大丈夫ですか?」
真桜が赤く腫れた俺の頬に触れようとする。
「触らないで、真桜……。」
「えっ」
「歯止めが……歯止めが利かなくなる。」
「でも痛そう……。」
「ははっ、痛い…痛いよ……。」
心が体が……真桜が欲しくてしかたないって悲鳴をあげてる。
「栄兄さん…無理しないでください……。」
「それ、真桜が言わないで……。」
「………。」
真桜が一瞬沈黙する。
「栄兄さん…詩織さんのこと私のせいですか?」
「違うよ。俺のせい。すべては真桜を忘れられないでいる俺のせいなんだ。真桜には総がいるから俺のことなんてすぐに忘れられると思うけど、俺はそうはいかない。」
すると真桜が涙ぐんで言う。
「私が…私がすぐに栄兄さんのことを忘れるような薄情な女に見えますか?栄兄さんのあのぬくもり……忘れるわけありません。」
「………。」
「……真桜が…真桜が悪いんだよ。俺に我慢するなって言うから……。」
そう言って俺は真桜の体を抱き寄せた。
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