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俺はそれに驚いた。
栄俊が誰かをこんな風に優しく包み込むように見つめる姿を見たことがなかったから。
それは溺愛している総を見る目とも、亡くした母親を見つめていた目とも、ましてや今まで付き合ってきた栄俊の彼女たちを見てきた目とも違っていた。
でもどこかで見たことのある目……。
雨……そう、雨だ……雨を見ている時と同じ目だ……。
「……本当に総の彼女か?栄俊の彼女ではないのか……?」
俺は思わずそんな言葉を口にした。
すると栄俊の目が一瞬曇る。
「違う……総の……総の彼女だ……。」
「………。」
重たいその空気を壊すように彼女が俺と栄俊に話しかける。
「あ、あの、私はこれで……。総さんのお父さんお邪魔しました。栄兄さん、ありがとうございます。」
「ああ……。」
「真桜ちゃん、またね。」
「はい、また。」
丁寧にお辞儀をすると彼女は帰っていった。
栄俊は切なそうな顔で彼女を見送る。
俺には分かった。
栄俊は彼女のことが好きなんだと……。
いや、彼女を愛しているんだと……。
それが痛いくらいに伝わってきた。
栄俊は彼女の姿が見えなくなるまで彼女を見つめていた。
「…栄俊……。」
「…あっ、父さんごめん。ちょっとぼ~っとしてた……。そうだ、晩ご飯食べる?食べてないなら何か作るけど。」
「いや、食べてきたからいい。」
「じゃあ、早く中に入ろう。」
「そうだな……。」
栄俊……お前自分がどんな目で彼女を見ているのか気づいていないのか?
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