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「一人で旅行とは優雅だね。どのくらい、いるの?」
「一ヶ月ほどいる予定です」
瑠哀は食べている手を休め、答える。
先程から、ピエールが気の向くままに質問をし、それに瑠哀が答える形になっていて、カヅキはそれを静かに聞いているだけだった。
昼と言うから、カフェかどこかに行くものだと想像していたが、連れてこられたのはレストランだった。それも、ファミリーレストラン、などというものではなく。
セーヌ川を後ろに控え、周囲の雰囲気とは少し掛け離れた重圧感があるこのレストランは、落ち着いた様相の中にも、かなりのお金が投資されているのがわかる。
この店は、ここら辺でも高級の部類に入るレストランだというのが、一目瞭然だった。
「パリに着いたのはいつ?」
「二日前です」
「そう。それで、どこを廻ったの?」
「ルーブル美術館と、その周辺を少し」
「ショッピングはしてないの?」
「していません」
「この後の予定は?」
「ガイドブックに添って行ったら、エッフェル塔だと思います」
瑠哀はそう言って小さな笑いを漏らしていた。
はたから見れば、ものすごい美形の青年と楽しくランチをしているように見えるだろう。―――が、実際は、そんな気配一つさえない。
微かに笑っているのか、薄笑いなのか、一応は瑠哀に相槌を返しながら微笑みを浮かべている。だが、その瞳は全く違っていた。
冷たいほどの無表情の色を表し、感情など一切浮かびそうにない氷の瞳が、隙なく瑠哀を見ている。
―――いや、観察している、と言った方が正解だろう。瑠哀の話す言葉一つに、動かす仕種に、全てのことを、一から十まで見極めようとしているようだった。
こうまであからさまにされるのも、あまりいい気分はしないが、瑠哀は言葉にできない何かを感じていた。
それが何なのか、自分でも判らなかったが、それを掘り当てるのもおもしろいかもしれない、と考えていた。
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