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「いい被写体だ」
朔也は、え、と言う風に首を傾げ、隣を歩いている友人のピエールの視線の先を追った。
「Japoneだろ?」
ピエールはそう言って両手を前に出し、指をL字型に組んでみせ小さな枠を作った。
焦点を合わせるように、その指の間を覗いている。
朔也はその枠の向こうに見える人影に目を凝らしてみた。
その中に、少女がいる。
腰まである長い髪、少し上を向いて瞳を閉じている白い横顔、それらがこの夏の暑い日差しを受けてキラキラと反射していた。
周囲の喧騒からかけ離れて、そこだけがポッカリと他の空間を作っているようで、軽爽とした静かさがあった。
不意に、その静寂が破られたかのように、その少女が瞳を開ける。
その少女の前に三人の男が近づき、取り囲むようにして前に立ちはだかっていた。
その中の一人が少女の肩を掴み、何か怒鳴り出す。
パチン―――、と少女が肩に乗っている手を払いのけ、険しい表情で何かを言い返した。
「―――何か様子が変だ。ここで、待っていてくれないか?」
朔也はピエールを振り返った。
「おてやわらかに」
その朔也に軽く視線を投げて、ピエールは軽く肩をすくめてみせた。
朔也はそれに小さく笑い返し、タッと少女の方に駆け出した。
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