Part 1

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*** 『いい天気。天気が良過ぎて、日に焼けちゃうわね』  瑠哀は空に向かって伸ばした両手を見ながら、くすり、と笑う。  今年の夏休みは、フランスで過ごしている。  瑠哀の親友のビクトリアは、アメリカに留学している学生だった。  その彼女の実家はフランスにあり、毎年、夏は実家に帰るのだが、今年は瑠哀も伴って帰京したのだ。  夏休みが始まると同時に、瑠哀はビクトリアの実家を訪ね、そこでステイして、約二ヶ月をビクトリアとビクトリアの家族と一緒に過ごしていた。  最後の一ヶ月は、色々とまわってみたい、と言う瑠哀の希望で、瑠哀一人だけ今はパリを訪れている。  こんな有意義な夏休みを送れるのも、瑠哀が必死でしたアルバイトと、父親の少なからずの援助のおかげだった。 『Dadyに感謝しなくちゃ』  ふふ、と嬉しさから笑みがこぼれ、笑みが残るその口元で小さく呟いて、瑠哀は静かに瞳を閉じた。  少し顔を上げるようにして、暑い日差しのシャワーを受け止める。  体中がエネルギーを吸収しているかのように不思議な気分に包まれて、しばしの間、瑠哀はその心地良さに身を任せていた。  ―――突然、閉じた目の上に影が差し、瑠哀は反射的に目を開けた。  目の前に男が三人立っていて、瑠哀を取り囲んでいる。 「あの女と息子は、今どこにいるっ?」  真ん中の男が早口のフランス語で問い詰めてきた。  スッと、その視線を素早く動かし、一瞬のうちに、瑠哀は男たちの存在を認め、表情も変えず、 「知らないわ」 「知らないはずがないだろう。一体、どこにいるんだ。答えろっ!!」  グイッと、その男が瑠哀の肩を掴み上げるようにした。  瑠哀は明らかに嫌悪をその瞳に浮かべ、パチンッ、と男の手を払いのけた。  冷たい、軽蔑も露な顔で、静かに前の男を睨み返す。 「知らない、と言ったはずよ。聞こえなかったの?」 「隠しても、なんのためにもならないぜ。痛い目にあう前に、さっさと答えた方が身の為じゃないのか?」  男は瑠哀に払われた手をさすりながら、後ろの男に目線で頷いた。  後ろの男が頷いて、ズボンのポケットに手を伸ばしかけ―――
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