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「うわっ―――!!」
「俺の連れに、何か用かな。こんな真昼間から、か弱い女性を取り囲むとはいただけないな。用件は、俺が聞こう」
瑠哀は驚いて、咄嗟に顔を上げた。
突如、瑠哀を取り囲んでいる左手の男がうめき声をあげたのに驚いて横を見ると、誰か知らない青年がその男の腕を後ろでねじり上げていたのだ。
青年はもう片方の手で瑠哀をかばうように自分の背に押し込み、三人の前に立つようにした。
「もう一度聞く。俺の連れに何か用か?」
青年はねじり上げている手に力を込め、更に強くねじり上げた。
「うぅっ………!!」
手をにじり上げられている男は、苦痛に顔を歪め、一瞬、救けを求めるように目の前の仲間を見上げる。
―――が、目の前の男は、突然の参加者に驚き、その上、自分の仲間の一人がねじり上げられているのに慌て、反射的に瑠哀とその青年を見比べた。
瑠哀の前にいる男はチッと忌々しげに舌を鳴らし、もう一人の男を促して、そのままダッと走り去く。
「君はどうする?」
青年は腕をパッと離し、残された男を軽く睨んだ。
だが、最後の男は自分が自由になったと判った途端、なにも言わずに脱兎のようにその場から逃げ去って行った。
最後の男が逃げ去るのを見送った青年は軽く息をつき、ゆっくりと後ろを振り返る。
『大丈夫?怪我はない』
瑠哀は、一瞬、きょとんとした。予期していない日本語をここで聞いて、反応ができなかったのだ。
『どこか怪我をしたの?』
青年は心配そうに眉を寄せ、瑠哀を覗き込む。
『――えっ…?―――ああ、ごめんなさい。ここで日本語を耳にすると思っていなかったもので……。私はなんともありません』
『そう、良かった』
青年は安堵した笑みを浮かべる。
改めてその青年を見ると、年は二十代前後、背が高く、あまり日本人らしくない顔立ちをしていた。
薄茶色の髪は微かにくせがかかっていて、柔らかそうな髪の毛先が、太陽の日差しをよく反射し、その瞳は、深いチョコレート色をしていた。
瑠哀を驚かせたのは、その優しげで少し繊細な感じのする様相と、さっきの荒々しさが全く結びつかない、ということだった。
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