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『救すけていただいて――、お礼を言います。ありがとうございます』
はっきりと礼を言い、真っ直ぐその青年を見上げて行く。
青年は首を軽く振り、爽やかな笑みをみせた。
『大したことはしてないよ。―――こんな昼間から女性を襲うなんて、かなりあくどいな』
青年は独りごちた。釈然としない様子だったが、気を取りなおして瑠哀を見直す。
『君は――、観光かなにかで来ているの?』
『ええ、観光です』
『一人で?』
『そうです』
『本当に?!』
青年は驚いたように瞳を上げる。
瑠哀は不思議そうに首をかしげ、青年に聞き返す。
『どうしてですか?』
『いや……。日本人の、それも、女の子が一人でパリに来ると言うのは、あまり聞かないから――』
瑠哀はそれにくすりと笑う。
『そうね。私も、あまりそういうのを聞いたことがありません。でも、私は一人の方が気が楽ですから』
そう、と青年も瑠哀につられたように微笑んだ。
「終わったの?」
突然、後ろから声をかけられて、瑠哀はくるりと振り返った。
「もう済んだの、サーヤ?」
「ああ。待たせて済まなかった」
「それは、いいけど―――」
後ろから現れた新たな青年はそこで言葉を切り、瑠哀に視線を向けた。
見事なほどのプラチナブロンドに、彫刻のような端整な顔立ち。
真っ直ぐに伸びた鼻、大き過ぎもなく小さ過ぎでもない唇は、喜怒を表すような仕草さえ感じられない。
そして、目の覚めるようなエメラルドの瞳。
アルマーニのスーツを着て、パリ・コレからちょうど抜け出してきたモデルのような感じさえする容姿で、その青年は静かに立っていた。
行き交う人々が、その青年を振り返り見ているほど、注目を浴びている。
「彼女は?」
「なんともないらしいよ。観光でここに来ているんだって」
そう、と頷き、金髪の青年は瑠哀の前に立って、瑠哀の手を軽く取った。
そして、その唇を近づけ瞳を閉じながら、そっと瑠哀の手の甲にキスをして行く。
「ピエール・フランソワ・デ・フォンテーヌです。どうぞよろしく」
瑠哀はその青年が甲にキスをし、その手を離し顔を上げる間、なにも言わずその青年を見ていた。
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