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「――ということがあったんだ」
「へえ、それで?」
ところ変わって俺の部屋。時計の針は七時五十分を指し示している。
本日は四月六日。大体この時期と言えばどこの学校も入学式、及び始業式の行われる頃だろう。その例に洩れず、俺の通っている高校も今日が始業式だ。
そしてそれが始まるのは八時二十分。
――ふむ。ここから学校までは徒歩でおよそ二十分といったところだから、今から朝食を摂って登校すれば、八時半には到着するだろう。
なんて冷静に現状の把握を始めた俺の目線の先に、突然茶色の瞳が迫ってきた。ずいっと顔を寄せ、じと目で俺を睨む少女。長い栗色の髪の一房が俺の顔にかかり、柔らかな良い匂いが鼻をくすぐった。
「そ・れ・でっ! それが寝坊する理由に繋がるとは到底思えないんだけど?」
「むう……」
さて、現在のこの部屋の状況は以下の通りである。
先日眠れなかった俺は、当然の如く寝坊をしてしまった。すると隣家に住んでいる俺の幼馴染が俺を起こしに来たのだ。
その少女は部屋に侵入するなり俺に寝坊の理由を問い質してきた。それに対して俺は昨日の出来事を事細かく、千の言葉を用いて熱情的かつドラマチックに語って差し上げた――とまあ、こんな感じだ。
「ちょっとしーちゃん! 聞いてるの?」
しかしこれもまた必然なようで、俺の幼馴染――結衣は、俺の昨日の怒りを全く解ってくれないらしく、こうして俺に怒鳴るのだった。
結衣は俺の布団の端を引っ掴み、無理矢理剥ぎ取ろうとする。しかし所詮は女の子の力だ。男の腕力には勝てまい。
「起きないと駄目なんだよ! 始業式に遅れたら、第一印象とか色々と大変なんだからっ!」
結衣の奴も中々折れてくれない。……いや、客観的に見れば俺が悪いということは、理解してはいるのだけれど。
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