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「くっ……! 印象が何だっ! 生きていく上で大切なことは他にもあるはずだ!」
互いに負けじと力を入れて布団を引っ張り合う俺達。仮にもこれから高校二年生になるという者が何をやっているのだろう。
「何わけの解らないこと言ってんの!? 印象は大切なんだよ! 新しい先生に目をつけられたら後々困るのはしーちゃんなんだからっ!」
「そんなこと知るか! 今はどうやってクーの奴に復讐するか考えることの方が大事なんだっ!」
「クーちゃんになら私からも言ってあげるから! 起きなさい!」
「駄目だ! 断固拒否する!」
こうやって言い合っているうちに眠気は吹き飛んでしまっていた。しかし、ここで折れるわけにはいかない。俺だって男なのだ。志は決して曲げない。
と、俺が心の中で不屈の精神論を謳っていると、不意に布団を引っ張る力が緩んだ。ついに俺の志の力が打ち勝ったのだろうか。
よし、これでまた眠れる。俺は急いで布団を被り、態勢を整えた。
「分かった。しーちゃんが起きないって言うなら私にも考えがある」
「ほう、俺の精神論に勝てるのなら何でもやってみるといい」
俺は言ったすぐ後に、この軽はずみな言動を後悔した。俺を熱く見つめる結衣の目に、光が宿ったからだ。
「【我が左手には慈愛の光、右手には非情の刃。光と刃よ、相見えて我が敵を貫……】」
「え……? ちょっと結衣さん?」
彼女の両の手には白い靄のような光が宿る。間違いない、これは〝魔力〟だ。
そしてこの呪文は……高位の攻撃魔法! まさか、部屋の中でぶっ放す気なのか? そんなことをされたらただでは済まない!
「わああ! 分かった分かった! 直ぐに支度するから外で待ってて下さいお願いします!」
「三分以内、分かった?」
「はい!」
俺の返事を確認するなり、彼女はぷりぷりしながら部屋を出ていった。
結論。男の志は簡単に折れる。
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