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爆睡…。せっかく来たのに話せないのは残念…。仕方ない…添い寝で我慢。
「ミナト…?」
再度寝ていることを確認するアスナ。
「し…失礼…しましゅ。」
布団を捲って湊のベッドに侵入したと同時に、背中に回された腕によって体の自由を奪われた。
きつくもなく緩くもない程よい力加減で湊に抱き締められてるアスナは、多少身をよじらせ体一つ分の距離を開ける。それからしばらく湊の顔をジッと見つめながら、普段と同じテンションで声を掛ける。
「せっ…積極的…ですな…旦那。」
…訂正。かなりの緊張をしているアスナは、湊の胸に顔を埋めて小声で詠唱をしだす。
「過去…現在…未来…全てを司る時間の流れ…我…冥界の紫羽…アスナ…此の者…変態魔王紳士……間違えた。」
「…ごほん…。此の者…ミナトの…真を見せよ…真鏡伝心。」
言い終えると、紫色の小さな光の球体が、湊の胸からゆっくりと飛び出してきた。
アスナはそれを大事そうに両手で抱き締めると、自身の胸に入れて目を閉じる。
しばらく目を閉じていたアスナは、怖い夢でも見たかのようにベッドから飛び起きると目元を潤ませて湊を見据える。
「ミナト…どうして…?」
その問いの真意はアスナにしか分からないが、アスナが見たものはこの先の近い未来に確実に起こる出来事であった。
「んん…。違う…こんなこと…絶対させない。ミナトは…アスナが…守る。」
自分自身に言い聞かせてアスナは湊の顔をなぞる。
そこで手を止めて、粘りつく様な嫌な視線を感じて部屋の入り口を見やる。
「誰…?」
誰もいるはずの無い空間へ言葉を投げる。すると扉から影のような煙が這い出してきたのも束の間、それは人の形を形成する。
「おやおや、気付かれてしまいましたか。お初にお目にかかります。私、名をグレン=ウィスクと申します。」
「何の用…?」
「これは連れない返事ですね。私はそこの者に用があったのですが。」
寝ている湊に指をさすグレンに、アスナはウサギぬいぐるみを投げつけた。
「ミナト…は…あげない。欲しいなら…アスナと…勝負。」
「これは手厳しい一撃ですね。ですが、お嬢さんの出る幕ではございません。」
気味の悪い笑みを浮かべて首を傾げるグレン。
「む…そうは…いかない。」
「ですが、もう勝負は着いておりますよ。お嬢さん。」
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