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「はぁー……げほっ!」
長州藩邸内に、朔と桂の姿はあった。
「……はぁっ……げほっげほっ!」
訂正しよう。
長州藩邸に、噎せている朔と桂の姿があった。
「朔、情けないぞ。あれぐらいの走りで息が上がるとは。」
「ヅラと一緒にしないでほしいな。さすが“逃げの小五郎"だね。本当に速かった。」
そう、あの後、腕を引っ張られて全力疾走した後、誰かに追われていては困ると言い出し、遠回りしまくって、此処についたのだ。
そして今は、桂の部屋のなかでお茶と水羊羹を前にして話している。
「お前、今までなにしてたんだ?松陰先生が亡くなった後、フラりと姿を消して、変な“噂"をよく耳にするようになったのだが……」
「俺じゃないかって?」
桂の言葉を遮り、朔は先の言葉を言う。
図星なので桂は何も言えなくなり、黙る。
そして、朔の続きの言葉を待っていた。
「そうだよ。その“噂"の中の“人斬り"は俺だよ。」
「……。」
あっさりと、その“噂"の内容を自分だと認める朔に驚きと戸惑いと、色々な感情がまじる桂。
今はどうなんだと、言いたげな桂を見て、朔はふわりと笑った。
「大丈夫だよ。俺は誓ったんだ。」
朔は己の手を忌々しげに、哀しそうに見て、強い目で桂を見てこう言った。
「もう二度と……人を斬らない。あの日……誓ったんだ。」
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