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着いた先は、毎年冬になると訪れていたお墓だった。
彼が何をしようとしているのか、何と無く察した私は黙って後を着いて行く。
暫く歩いて行くと、彼はある場所で足を止める。
そこには大きな文字で幡野家と彫られたお墓がある。
私の両親のお墓だ。
高校生の時に2人は飛行機事故で帰らぬ人となった。
彼は、両親のお墓の前に座り込み手を合わせて、目をつむる。
そしてゆっくりと話し始めた。
「お義父さん、お義母さん。この度、希実さんと結婚させていただくことになったので、報告に来ました」
優は合わせていた手を一度離し、私の肩を抱き寄せて続けた。
「希実さんと2人でこれから一生歩んで行くので、どうか見守っていてください」
彼の言葉で、ふ…と昔の記憶が蘇る。
両親が生きていた頃の記憶。
いつも優しく見守ってくれて、困った時には助けてくれて。
悲しい時には、一緒に悲しんでくれて。
嬉しいときには、一緒に喜んでくれて。
寂しいときには、抱きしめてくれる。
今でもちゃんとおぼえてる。両親の温もり。
そして、両親のお陰で私は素敵な男性とも巡り合えた。
だから、産んでくれてありがとう。
お父さん、お母さん。
「希実さんを産んでくれてありがとうございました」
自分が思っていた事を、誰かが代わりに口にした。
それは、いつも聞いている彼の声。
「希実さんと一緒にいられて、俺は幸せです」
肩を抱き寄せていた手を離し、今度は手を握る。
一度目があって、彼が優しく笑いかける。
「一度、結婚す前に挨拶に来ようと思ってたんだ」
私の両親が亡くなったことを知った日も、ただ抱きしめて"頑張ったね"って言ってくれて…
私の事をいつも一番に考えてくれる優しい人。
だから…
「お父さん、お母さん。私、優と幸せになるね」
嬉しくて泣きそうになり、繋いでいた手に力を込めれば笑みが返ってくる。
大丈夫だよ。
もう、私は一人じゃなくなったから。
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