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「このままでは、人類は近い将来に滅びます。早ければ三十年、遅くても六十年といったところでしょうか」
西暦二一六五年九月二十日。重大な発表があると言って世界政府理事会代表二十三名を集めた葵は、予告した通り重大な発表をした。
各代表、報道関係者、会場スタッフ、もちろん俺も含めて全員が言葉の意味を理解出来なかった。昔から突拍子もない事を平然と言って来たが、流石にここまでの規模は初めてだ。聞きたい事は山ほどあるが、この天才が今まで口にした事は例外無く現実となっていた。この場にいる全員がそれを正しく理解していた、だからこそ質問を口にするよりも現実を受け止めるだけで精一杯なのだ。
「と、言っても。今ここでこの世界――否、人類に何が起きているのか説明したところで皆様は到底理解出来ません。ですので七日後、もう一度場を持ちましょう。最低限代表の方々はそれまでに現状を正しく理解してきて下さい。本日は以上です」
まず間違いなく言える事は、俺を含めこの場に居合わせる人間は程度の違いあれそれなりの修羅場を踏んできている。それが誰一人、ただの一人すら葵の言葉に反応出来ない。当の本人は事も無げに演壇から下りてこちらに歩み寄る。
「お兄ちゃん? 行くよ?」
まるで買い物にでも誘うように、二十歳という年相応の笑みで俺を誘う葵。
それを一人の代表が制した。
「お待ち下さい橘博士! 人類が滅ぶとは」
「キール代表」
先ほどの朗らかな口上から変わり、一切の感情を見せずに続ける。
「私は同じ事を言うのが嫌いです。聡明な貴方々に今出来るのは、それぞれ国をあげて現状を知る事だけです。おわかりですね?」
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