魔女の予言

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 それに気が付いたのは、葵が八歳の時だった。四つ歳の離れた俺は、葵がもっと小さい時から空想話をよく聞かせていた。そして、いつかそれらが現実になったらいいな、と付け加えていたら、にこにこと微笑みながら葵は必ずこう言い返した。 「葵がお兄ちゃんの夢を叶えてあげる」  ありがとう、あの頃は素直にそう思っていたんだ。幼い妹が俺の莫迦話を真剣に聞いてくれているのが嬉しかった。まさか自分の空想が世界を変えるだなんて予想出来るはずもない。  ごく一般的な中流家庭に育った俺達だ、いくら天才とはいえ初めから葵に研究資金があるはずもなく、最初の発明は論文だった。  八歳の葵が書き上げたのは、現在のテレポート装置の基礎概念。俺はもちろん周りの大人たちだって何が書いてあるのか一割すら理解出来なかったが、唯一それの重要性を見出したのが当時葵の担任をだった教師。そこから巡り巡ってどうにかお偉い学者か何かが解読したんだろう、史上最年少の天才発明家として脚光を浴びるまでそう時間はかからず、世間から天才と認められてからの活躍は目覚ましかった。  反物質の精製及び対消滅からの無限エネルギー製造法、空間立体投影に各種念動式機構、空間物質変換、果ては人体浮遊装置まで、物理学に留まらずあらゆる発明を成した。  二世紀以上も前から世界中の学者さん方が成し得なかった偉業を、子供と呼べる年齢の葵が完成させた。そして、人類の歴史上最高の天才、人類の至宝、最近では神の子とまで呼ばれている。  だが、俺だけは素直に喜べなかった。  葵が成し得た研究は、例外無く俺の空想話なのだから。葵が一つ、また一つと研究を完成させる度に怖くなった。  世界が、変わっていく。  もちろん悪くなっているわけではない。より便利に、より快適に。その空想だって俺だけの物じゃない。きっと世界中で多くの人が考えた事があるはずだ。  だが、それを現実にしているのは紛れもなく俺の妹。疑いようもなく、俺の考えた世界。
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