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葵が直接それを口にしたのは一度。約十ヶ月前、今年の元旦に最後の発明を発表した後だ。
「これでお兄ちゃんの夢は叶ったね」
やはりか、そう思った。
数年前から葵のお付きとしてあちこち連れ回され、わけのわからんどこぞのお偉いさんと顔を合わせる度に、生きた心地がしなかった。でもそれもこれで終わり、そう考えれば少しは気が楽になる。
それからは騒がしくも平和だった。講演を行ったり学会に出席したり会食したり、その程度だ。俺はといえばタチバナアイランドの経営に多少顔を出すくらいで、実際の運営は他の優秀な人間がやってくれている。本当に、平和だった。まさか嵐の前の静けさになるとは想像もしていなかった。
「お兄ちゃん」
人類が滅ぶ事になっても葵は変わらない。今まで同様、にこにこと俺を呼ぶ。
「今日から七日間地下に篭るよ。外からの連絡は全部遮断してね。通していいのは食事だけ」
「俺の意思は?」
「お兄ちゃんは私の言う事を聞いてればいいんだよ。今までだってそうだったでしょ?」
何も言い返せない。そっくりそのまま仰る通りだ。既に俺の人生は妹に付き従う事となっているし、葵の言葉は無条件で他人を従わせる力がある。
食事を定時で転送してくるようにとだけ指示を出し、俺達――いや、俺は世界から隔離された
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