one night Ⅰ

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「いいよ」 「え?」 切れ長の鋭い瞳が、真っ直ぐ私を捕らえる。 「俺が何もかも忘れさせてやるよ」 陳腐で気障な台詞。 バカな女が騙されてしまう男の常套句。 だけど、今日の私には…その言葉は大きく響いた。 ネオンが瞬く夜の街。止まらない人波。 まるでそこだけ時間が止まったように、二人は挑むような視線を逸らすことなく交わしていた。 「…ホントに忘れさせてくれるの?」 「お望みとあらば」 不敵に笑う男。 大人なのか子供なのか解らない、独特な雰囲気。 妖しく、無邪気で、年齢不詳。名前も何も知らない。 でも、それでいい。いや、逆にそれがいい。 今夜だけでいい。 ただ、何もかも忘れさせてくれるのなら。 私は男に近付き、彼の大きな手をギュッと握った。 「じゃあ、私を泣かせて」 欠けた月が私を狂わす。 これが、あの夜の始まりだった。 ・
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