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「これ、お前のだろ?」
岸谷から差し出されたのは、黒いハイヒール。
「何で…」
それしか言葉が出てこない。
如何にも不機嫌そうに眉をひそめ、岸谷は溜息を吐いた。
「このビル裏のパーキングにいたら、ビルの3階から靴が降ってくるのが見えた」
「あ、そう…」
呆けた顔で見上げることしか出来なかった。
こんなタイミングで、この男が現れるなんて。
「きゃぁ!」
ドンと大きな音を立て、尻餅をつく。
岸谷が私の右足首を掴み、引っ張ったからだ。
「な、何すん…」
驚くことばかりで、目の前の男を見開いた眼で見ていれば、ぐいぐいと無理やり靴を履かされる。
お蔭で、みっともない伝線の足先は隠れた。
「あとは自分で履けよ」
放り投げられたもう片方を、あたふたと受け取った。
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