初雪

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少女は色の白い肌を純白の着物で包み、白銀の髪を高い位置で結っていた。その姿は白い世界の使者とも思えた。少女が持つ白以外の色は結紐の蘇芳と唇の珊瑚、そして彼女の感情を映す瞳の金だけであった。 「――桜姫(おうき)」 男が少女の名を呼ぶ。 「…人の、心は…魂は…このように、こんなにも綺麗なのか?……俺は、多くの生命を奪ってきた。…俺の魂は、この白のように綺麗でも清らかでもない。それなのに、この魂を欲するのか?……欲してくれるのか?」 能面のように表情を変えない少女、しかしその瞳は揺れていた。 「心の、魂の有り様は人それぞれだ。何の罪を犯していなくとも黒く濁った者もいれば、他の生命を脅かしながらも曇らない者もいる。両者の違いは認識の違いだ。自分の言動の認識の差異。これが両者を分ける。誇ってもいい、お前の魂は我(わたし)がこれまで契約してきた人間の、誰よりも澄んでいる」 「……そう、か」 男は少女―桜姫の言葉に微笑んだ。もう身体に力なんて入らないはずなのに。 「誰かに…求められると、いうのは、いいものだな」 そう言い男は静かに瞼を閉じた。 緋がこれ以上白を染めていくことはなかった。 瞬間。 強い風が吹き、白が男と少女を包んだ。 風が止んだ時には少女はいなくなっていた。 そこにあるのは生に幕を下ろした男だけだった。 先ほどまで白い少女がいたという跡はなく、積もった白には足跡もなかった。
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