最後の景色

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「行ってらっしゃい」 毎朝明るい声で送り出してくれる母親に対して、“行ってきます”と言うこともなく。 夏鈴はただ重い足取りで車へと向かい、助手席へ腰を下ろす。 毎朝、父親の通勤のついでに学校に送られていく夏鈴は、着くまでの10分間に何度ため息をついているのだろうか――― 「いってらっしゃい」 「うん・・・」 暗い声でそう返事をすると、扉を閉めてヒラヒラと手を振る。 手を振るのは小学生の時からのクセだ。 下駄箱から上履きを出すと、トントン、と何度かつま先を床に付け、かかとを上履きの中に押し込めながら階段へ向かう。 もう何回繰り返されたであろうかこの動作は、ボーっとしていても自動で行われてしまうのだ。
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