18人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「行ってらっしゃい」
毎朝明るい声で送り出してくれる母親に対して、“行ってきます”と言うこともなく。
夏鈴はただ重い足取りで車へと向かい、助手席へ腰を下ろす。
毎朝、父親の通勤のついでに学校に送られていく夏鈴は、着くまでの10分間に何度ため息をついているのだろうか―――
「いってらっしゃい」
「うん・・・」
暗い声でそう返事をすると、扉を閉めてヒラヒラと手を振る。
手を振るのは小学生の時からのクセだ。
下駄箱から上履きを出すと、トントン、と何度かつま先を床に付け、かかとを上履きの中に押し込めながら階段へ向かう。
もう何回繰り返されたであろうかこの動作は、ボーっとしていても自動で行われてしまうのだ。
最初のコメントを投稿しよう!