最後の景色

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風邪のせいか、式の途中で何度か息苦しくなりながらも無事に式を終えると、拍手で送り出される卒業生。 卒業生が退場し式を終えると、体育館内が少し騒がしくなる。 夏鈴は身体の緊張を解き、ふーっと息を吐いた。 教室に戻り椅子を片付け、卒業生の見送りのために外へ出ると、校舎前の道路の両側には長い列。 見送りが始まると、在校生と卒業生は会話をしたり、プレゼントや手紙を渡したりと、それぞれのやり取りをしている。 しかし夏鈴には仲の良い先輩がいない。 何かを創造することが好きな夏鈴は美術部に所属していたが、先輩と会話することなく過ごしていた。 まだ入部したての時。2年生と3年生は仲が良さそうだった為、先輩との間に流れる微妙な空気は時間が解消してくれるのだと考えていた夏鈴だが―――。 2年生になっても、先輩達と必要以上に会話する者はいなかった。 それでも見送りで目が合うと、頑張ってね、と声をかけてくれたり、手を振ってくれる先輩達。 夏鈴はホッとし、笑顔になる。 先輩たちは皆、笑顔で嬉しそうだった。 しかしふと思う。 1年後のこの場所で、後輩に声をかけることも、かけられることもないのだろうと。 美術部は現在の2学年が卒業すると同時に廃部になる為、後輩はいないのだ。
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