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じゃらっと玉暖簾の鳴る音がして、奥の台所から母が顔を出した。
夕飯の支度をしていたのだろう。
白い木綿地に、朝顔の刺繍のついた割烹着を着ていた。
玄関先に佇む洋子を見るなり、癇に障るつくり声で言う。
「あらまあ、素敵な浴衣ねぇ!洋子ちゃん」
「ありがとうございます」
洋子は軽く頭を下げた。
きれいに結い上げられた髪が、背中から差す、西日にひかった。
「でもこれ、おばあちゃんのなんですよ。娘時代の。この前、箪笥を整理していたら出てきたらしくって。今日の花火大会に行くって知ったら、いいものだから着て行きなさいの一点張りで」
「いいじゃない! 白地に藍染めの海鳥なんて、粋で好きだわ。大正のものかしら……どことなくモダンだから、ひょっとしたら明治の名品かもしれないわよ。アンティーク浴衣ね!」
「そんな、上等なのじゃないですよ!」
「やっぱり浴衣はシンプルなのが一番ね」
うんざりと目を背ける私に構わず、母は今度は、帯を褒めそやし始めた。
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