浴衣

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 決して、華美なものではなかった。  無地の紺。そこへ、鋭角に斬りこむようなオレンジ色の裏地が、鮮やかに眼を惹いた。  丁度、胴前にくる位置で折り返しているので、その色がわかる。  品のいい折り紙のようだ。 「合わせる帯で、いくらでも雰囲気が変わるものね。飽きがこないから長く着られるし。いいわね、孫の代まで楽しめるなんて」    母は、極めつけに、ちらっと私に視線を送ってみせた。    ため息をつく。  母がさっきから執拗に洋子を誉めそやすのは理由がある。  彼女に向けられている言葉は全て、流行のデザイナーズ浴衣にレェスやフリルでごてごてと着飾った私を、突き刺しているのだ。  賢い洋子に分からないはずもなく、私の様子に気がつき、心から恐縮していた。  そんな彼女を、これ以上見ていたくなかった。 「行こう、港でみんなが待ってるんだから。遅れたら洋子のせいだからね」  言い捨てざまに、私は玄関に置いたピンクの鼻緒の下駄をつっかけて、さっさと家を飛び出した。
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