0人が本棚に入れています
本棚に追加
決して、華美なものではなかった。
無地の紺。そこへ、鋭角に斬りこむようなオレンジ色の裏地が、鮮やかに眼を惹いた。
丁度、胴前にくる位置で折り返しているので、その色がわかる。
品のいい折り紙のようだ。
「合わせる帯で、いくらでも雰囲気が変わるものね。飽きがこないから長く着られるし。いいわね、孫の代まで楽しめるなんて」
母は、極めつけに、ちらっと私に視線を送ってみせた。
ため息をつく。
母がさっきから執拗に洋子を誉めそやすのは理由がある。
彼女に向けられている言葉は全て、流行のデザイナーズ浴衣にレェスやフリルでごてごてと着飾った私を、突き刺しているのだ。
賢い洋子に分からないはずもなく、私の様子に気がつき、心から恐縮していた。
そんな彼女を、これ以上見ていたくなかった。
「行こう、港でみんなが待ってるんだから。遅れたら洋子のせいだからね」
言い捨てざまに、私は玄関に置いたピンクの鼻緒の下駄をつっかけて、さっさと家を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!