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「いいなあ」
並んで歩き出してしばらくたったころ、唐突に洋子が切り出した。
「……なにが?」
「その浴衣、おニューなんでしょ。わたしは、買ってもらえなかったんだ。ほら。うちって家業持ちだから、おばあちゃんが元気でね。お母さんってば、逆らえないの」
「……」
「ほんとは水色のが欲しかったのになぁ。まるい水の輪がいくつも重なっていて、金魚が泳いでるの。そんな、子供っぽい柄は似合わないって言うのよ。酷いよね。それでなくったって、中学生に見られないこと、気にしてるのに」
防波堤の切れ間から、唐突に水平線が覗いた。
強い西日が差しこんで、目が眩みそうになる。
洋子は、金色に光る海を、まっすぐに見つめていた。
ああ、なんてこの子は贅沢なんだろう。
私はかんしゃくを起こした子供のように、眼の裏まで一気に熱がのぼるのを感じた。
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