講評

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<総評>  発想の転回を。  難点こそを美点に。  この作品は、ライト・ノヴェルではない。構想時から作者自らがラノベ執筆宣言をしたり、同じく作者自らが『読み手にも書き手にもライトなノベルであるとするスタンス……』とあとがきに記したり、何よりライトノベルの懸賞応募作品であったりと、明らかにライト・ノヴェル(以下原則的に、ラノベ)を指向する作品であるにも関わらず、だ。また些末ながら、作者が作品表紙にタグとして挙げたキーワードも、作品を解釈するにあたっては不適当だったり舌足らずだったりする。更に作者曰く、当初は童話・絵本等児童文学としてカテゴライズしていたものを、執筆中途ファンタジーに変更したとのこと、だがこれもまた不満足である。  文体が硬く重い(古典的文語的語調)。一部設定が珍奇(硬派SF的リアリズム)。重要題材が不適切(性的・暴力的)。相当程度決定的な難点が列挙されるが、加えて、物語の布石を散らした上で意図的に未回収とする手法は、仮に連作を前提にしていたとて、如何なものか。硬派な文体の重々しさと相俟って、「幻想文学的ラノベ」を指向していながら、「純文学的雰囲気」に満ちた作品へ堕落させやしまいか。とまれ、作者の意図も虚しく、構想と実態との乖離は致命的なまでに決定的である。敢えて穿った視点から、物語や文章の質に関する言い逃れのための方便としてラノベという体裁を採用した、と悪意ずくで邪推することさえできよう。  しかしながら、だ。ここで発想の転回こそを敢行しよう。上記難点こそを、美点として捉えるのだ。
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