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この作品は、「内容空疎」である。また、一部を除けば総じて、人物・背景・状況全てについての設定が比較的「軽やか」な手法で徹底されている。更に、作品全体のまとまりを生むべきバランスに偏りがあるとはいえ、構成が「単純明快」であり、そのため展開は、回収されぬ布石が多少あるにも関わらず「引っかかりの少ない」ものとなり、「読解が容易」になっている。果たせるかなこれらは全て、ラノベ成立のための必要条件ではないか。そして何よりこの作品は、「内容空疎」であるが故に、作者の執筆の上でも読者の読解の上でも「興味本位」のみで進められる、さよう作品なのだ。如何に構想と実態が乖離していようと、基礎は既にして全うされているのだ。
そこで、作品に決定的な打撃を与えている難点を、全く正反対の視点から捉えてみよう。先ず、ラノベ愛読者に限らずほぼ全ての読者が違和感を覚えるであろう、語調。この硬さ・重さこそが、物語の進行・展開していく所々で「リズム」と「独特な雰囲気」を生み、そして作品全体の「世界観」を醸し出す、と考えるのは大胆に過ぎる冒険であろうか。次に設定。総じてライト・タッチなものの中で硬派リアリズムが散見されるのは明らかに異様ではあるが、これも語調同様、「異様な世界観」、即ちファンタジズムそのものの醸成に一役買っている、とするのは乱暴か。その次はバランス。物語の半ば辺りからやおら、漸進的とはいえぬ形でテンポが変わり急展開して頂点へと向かうことは、前後半で文字数のバランスを均等にしているが、物語における話題重要度のバランスを狂わせてしまっている。ただしこれは同時に、テンポ変換後の展開に「疾走感」を与えることにも寄与している筈である。そして、恐らく最大の問題となり得る、布石回収問題。物語に布石を散らし伏線を敷きその上で回収せずにおいて「含み」を持たせる、という技法は純文学の常套である。これが語調を助長し読者の違和感を増大させるだろうことは言うまでもないが、仮に上述の「独特な雰囲気」と「異様な世界観」とが適度に醸成されていればむしろ、それらが最適に成るべく促進する筈だ。また作者によると、続編以降諸作の製作は既に決定されている、とのことなので、後に布石・伏線が回収されていく展開に期待できなくもない。
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