講評

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 以上を踏まえて、いざ書籍化可能性を探ってみたならば、如何に。これは、結局のところ誠に残念ながら、極めて大いに困難だと謂わざるを得ない。前述した発想の転回諸々がややもすると牽強附会の気味を免れ得ぬことは敢えてさて置いたとしても、そして作品が既に公開発表され衆目を通じた解釈・評価が可能であることを重々承知していたとしても、作品全体に渡る細密な推敲・修正・改訂の必要不可欠は変わらず、その断行は強く要請されねばならない。確かに上述の通り、この作品がラノベたるべき基礎についてのみ問うたならば、これは完成しているとして好かろう。だが既に公開発表済の作品であることが幸いしなかったならば、最大限の改訂が為されぬ限り書籍化出版は到底あり得ない。故に、語調もリアリズムも、また先に挙げながら上述では省いた特定題材の描写・表現法も、仮に全面的改訂となり現状のバランスが変更されたとて相当程度、希釈し軽減する必要がある。  しかしながら、だ。否、だからこそ、敢然と険しきを冒して発想の転回をするのである。何れにせよ、改訂の断行完遂は必須。だがよしやその改訂が、ラノベ愛読者の関心を惹起するには足らずとも敬遠を回避するに足るだけのものであれば、光明も差す。即ち、発想の転回が市場に展開され得るのだ。即ち、現行のラノベ市場における購買者読者の、また現段階ではラノベに対し興味を有していない文芸愛好者の、「潜在的ニーズ」を貪欲に探求し斬新に開拓してゆくことができるのだ。その意義は断じて浅からぬ、と確信するものである。  一般的なラノベ購買者読者、就く愛読者ならば敬遠するものを、逆手に取る。かつ、新たな購買層として文芸愛好者の一部を、取り込む。そのために、ファンタジズムもリアリズムも性・暴力も、軽快設定も単純構成も、内容空疎も興味本位指向も、布石未回収さえも、そして硬派な語調による重々しい文体こそも、全て採り容れ、活かす――  『ハードでヘヴィーな純文学的ライト・ノヴェル』――空前の「ヘビーラノベ」なるジャンル内ジャンルを、進取して創出することは、果たしてできまいか。  
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