空の向こう

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家に着いたところで携帯が鳴る。 結衣のお母さんからだった…… 身体が震える。 呼吸が乱れる。 帰って来るんじゃなかった。 「遥ちゃん、結衣が……」 それ以上は聞けなかった。止めたばかりの原付のエンジンをかける。 結衣、僕が行くまで…… お願いだから…… もう一度…… 病室には、結衣の両親がいた。 結衣の上に医師がまたがったいる。その肩が上下しているのが見える。 全身の力が抜けていった。 結衣の傍らにひざまずいて手を握る。 医師の動きに合わせて結衣の体も動く。 結衣の体が軋む。 もういい、もうやめてくれ…… それが声になる寸前、結衣のお父さんが医師の手を止めた。 「もう……ありがとうございました」 病室内にピーと嫌な音が響く。 僕は泣いて何かを叫んでいるが、吐き出す言葉は意味をなしていない。 君への想いが、僕の体からこぼれ落ちる。 そして僕の全てが無くなった。 空っぽの心を支配していったのは、ただただ君への懺悔の気持ちだった。 僕は、随分勝手だったね…… 君を1人残し、飛び立って行った。 君を失って気づくなんて…… どこまで愚かなんだ。 君を1人にしてしまった。 本当に……すまない。 震える膝に手を置いて、もう一度だけ立ち上がる。 いとおしさが溢れてくる。 結衣の顔が霞んでいく。 結衣の頬に手を当てる。 次の瞬間……またあの銀色の光が飛んだ。 その場に倒れこむ。 「遥汰君、遥汰君、遥……」 僕を呼ぶ声が遠のいていく……
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