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一晩中結衣の顔を眺めていた。
夜が明け、朝の匂いがする。
優しい時間。少し空気が軽くなる。
結衣が目を覚ます。
暫くは何も言わず僕のことを見ていた。
「遥汰……」
「どうした?」
「私、思い出したことがあるんだ」
「うん」
「ずっとずっと会いたくて……」
「ねえ遥汰、また会えたんだね、私たち」
「えっ……」
「おかしいでしょ、私」
結衣が小さく笑う。
泣くまいと誓っていたが、涙がこぼれ落ちた。
「結衣、そうだよ。また会えたんだ、僕たち」
「桜の木の下で別れて……もう何年経ったんだろうね」
「遥汰……」
結衣の頬にも涙が伝う。
「もっとよく顔を見せて」
僕は何度も頷いた。結衣の手を取り、それが壊れないように僕の手のひらで大事に包んだ。
「3度目がもしあったら、そしたら……」
「また私、間違えずに遥汰を見つけることが出来るかな?」
結衣のことを抱き締める。
「大丈夫、僕が必ず見つけるから。だから結衣は、何も心配しないで……」
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