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穏やかに、そして慈悲深く時が流れる。
「空が見たいな」
そう言われ、カーテンを開ける僕に結衣が笑って言う。
「知ってる? ここからは空が見えないって」
「屋上まで連れて行って」
「大丈夫なの?」
「うん、平気だよ」
結衣を車椅子に乗せて、頭にタオルを被せた。ナースステーションの前を通りすぎてタオルを取る。
結衣が振り返り僕を見上げてイタズラそうな笑顔を見せる。
いつ振りだろう、君のそんな笑顔を見るのは。
エレベーターが止まり屋上へ出る。
「お天気だ」
横で腰を落とし、同じ目線で空を見上げた。
「遥汰のこと連れて行っちゃった空だけど、結局嫌いにはなれなかったな」
「青いねー」
眩しそうに目を細める。
岬へ続く草はらに寝そべって、よく二人で空を見上げたね。
大空に憧れて、いつか二人でと話した。
もう70年も前の話だ。
このまま、このまま時間が止まればいい、そう思った。
今夜も一緒にいるつもりでいたが、帰っていいと言う結衣の言葉に従った。
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