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「ねぇ…」 …あなた…。 頭の中に朝、いつも変わらない、仕事に出掛けて行く彼の背中が跳ねるように浮かび、おなじような唐突さで閉じられるように消えた。 今更ながら今朝、調理中に薄皮を削ってしまった左の親指が痛むような気がして、 「…智也さん…」 私はその指を包むように手を組み直し、傘の柄を胸に引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
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