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エピローグ
その後、ひなちゃんが6年生になるまでは、夏休みに遊びに行き、高野さん、夏川さんとは年賀状と暑中見舞いくらいのやり取りをしていたが、それだけだった。
忘れていたわけじゃないけど、思い出のひとつとして心の片隅にしまいかけていた時、1通の手紙が届いた。
ひなちゃんからだ。内容は…
引越しを手伝って欲しいから最寄り駅まできてと。しかも指定は明日だ。
正直今の僕にひなちゃんを見分けられるのかが不安だったが、その心配は必要なかった。
翌日改札に行くと、女の子が周囲をキョロキョロ見回していたのが目についた。
僕と目が合うと少し見定めた後、小走りで近づいてきた。
「陽太さん…ですよね。」
「よくきたね、ひなちゃん。」
と言うと急に笑顔になった。
すっかり大人びた感はあるがこの笑顔は確かにひなちゃんだ。
「早速ですが、こっちです。
細かい話は後で。」
そう言って連れて来られたのは、僕の部屋から2、3分の所のアパートだった。
「あたし、春から江戸ヶ浜芸大に行く事になって引っ越して来たの。昨日までお母さんが手伝ってくれたんだけど、まだ片付いてなくて。」
「え、ここ、うちすぐそこなんだけど。」
「知ってるよ。お母さんも挨拶したかったみたいだけど、陽太さん昨日お仕事だったから。」
僕は段ボールを開けたり食器類を棚に並べたりと、手伝っていると、ひなちゃんが片付けながら切り出した。
「あたしね、お母さんに『お前の気持ちはどうなんだい。』
って言われたんだけど、正直わかんないのよね。
あ、陽太さんのことは好きよ。信用してるし。
中学、高校と他の男の子を好きになったりもしたけど、どこか陽太さんの事が引っ掛かってて。
だから、自分の気持ちを確かめに来たの。」
「それって。」
「ねえ、陽太さんも、何で結婚しないんですか?
あたし考えたの。陽太さんもどこか昔の事が引っ掛かってるんじゃないかなって。
だったら、お互いにスッキリするまであたしは陽太さんとお付き合いしてみたい。
ダメですか?」
やれやれ、僕なんかよりしっかり考えているみたいだ。
「ひなちゃん、約束通り来てくれてありがと。
僕もひなちゃんの提案に乗っていいかな。」
この先どうなるかはわからないけど、ふたりは自分の気持ちに素直になりたいと思った。
shortarrow in snow.
雪中 翔太郎.
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