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意外と興味津々という感じで聞いてたが、今度は自分がというように
「そうだ、今度はひながこの辺案内してあげる。」
と言って立ち上がって僕の手を引っ張って歩きだした。
いつも一緒に遊んでいるお友達かのように僕の手を引っ張り、僕までまるで小学生の頃に戻ったような錯覚に陥る。
少し山道に入ってコガネムシや蟻の行列、カナヘビなんかも見ては一緒になってはしゃいでいた。
と思ったら、急に、悲鳴をあげて僕に抱きついてきた。
「や、いや、あれ嫌い。」
どうやら、大きい蜘蛛だけは苦手らしい。
「ひなちゃん、大丈夫だよ。」
そう言って少しかがんで、軽く抱擁しあたまをポンポンと掌で叩くが
「もういない?」
とまだ怯えて僕を頼ってくる。
そのとき不覚にも、僕の回した腕がひなちゃんの華奢なのに柔らかな身体を意識し始めてしまった。
陽菜ちゃんとあの『太陽とヒマワリ』の最中に触れ合ったときのドキドキが蘇ってきた。
あのときはこのドキドキの意味は分かっていなかったがあの時とは違う。
いや、これは親が子を愛おしいと思うのに似たものだと自分に言いきかせるが、
ドキドキは収まらないばかりか、もうしばらくこうしていたいとまで思いはじめていた。
「いや、まだいるけど大丈夫だよ。
少し大回りして向こうに行って、畑の方に戻ろうか。」
結局ひなちゃんが落ち着くまで、ほんの1分くらいだったのだけれど、親が怯えている子をあやすような体制で抱き合っていた。
山を降り、とうもろこし畑に戻ってヒマワリの畦道に帰ってきた。
ふたりでヒマワリに向かい並んで座ると僕にもたれてきた。
照りつける陽射しではなくなったがまだまだ明るい夏の夕刻。
なんとなくまだこうしていたい気分であったが、そんなわけにもいかないだろう。
「ひなちゃん。そろそろ帰ろうか。」
「うん。でも、ひなもっと陽太おじさんと遊びたい。
ねえ、おうち遠いの?」
「そうだね、電車で5時間位かな。」
「つまんないの。」
「でも今日はね、おばさんの家に泊まってるから明日までいるよ。」
「じゃあ、明日も遊んでくれる?」
「ああ、いいよ。
でも明日は昼の1時頃に帰るんだ。」
「ねえ、帰っちゃっても、
また遊びにきてくれる?」
あの夏の日陽菜ちゃんが言った言葉。
果たせなかった約束。
その一言が僕を引き戻してくれた。
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