狼さんは夜を待たない。

プロローグ：成人の日に

誰？と思う間もなく、橘夫人が少し怒ったような声で男の子を手招いた。

「来る時は携帯に連絡しなさいって言ったでしょう！ほら、ご挨拶して。
もう不肖の息子でごめんなさい、椎葉さん」

謝られた母は、笑って「間に合ったからいいじゃない」と応じる。

男の子が橘夫婦の隣へ移動するほんの一瞬、
男の子の無遠慮なくらい真っ直ぐな視線がわたしに注がれた。

バチッ、

かち合った視線がそんな音を立てた気がした。

え、と思って瞬きをすると、もう男の子はこちらを見ていなかった。

「風斗(ふうと)です。今日はお招き頂きありがとうございます」

まぁ、しっかりしてるのね
と母が喜ぶ。