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「アロイ…か
私はもうだめだ」
父の声は、絶え絶えで聞き取るのがやっとだった。
「いやだよ父さん!」
少年も父はもう助からないということを理解していたが心がそれを拒否していた。
「お前に伝えなければならないことが…ある。
よく聞きなさい。
さっきの男に盗まれた宝。
あれは父さんの父さんから、代々受け継がれていた物だ。
今からお前の物だ大事にしなさい、いずれきっと役に立つ。
それと、今まで父親らしいことをしてやれなくて済まなかった。
でも私は幸せだった、少し悔いは残るが良い人生だった」
その言葉を最後に少年の父は息を引き取った。
今すぐ声を挙げて泣きたかった。いや、一瞬でも気を緩めたら泣き出してしまうだろう。だが、少年はすんでのところでそれを堪えた。父に不安な思いを抱えさせて逝かせるなんて出来ないから。
少年は父に言われた通り賊の死体から、盗まれた宝の入った小袋を取り返した。
中身は、懐中時計だった。
「こんな物の為に、父さんと母さんは」
そう思うと途端にこの懐中時計が憎くなったが、父の最期の言葉を思い出し壊すのは踏みとどまった。
「もう良いのか?」
少年を洞窟の入り口で待っていた執行官の青年は、洞窟から出てきた少年にそう尋ねた。
「うん。あの父さんと母さんの」
「ああ、遺体はこちらで君の家に送るよ」
青年は、少年の言葉を遮りそう言った。少年もそれに静かに頷いた。
「じゃあ、もう遅い。帰ろう君の家に」
青年もなんと声を掛けていいのか数瞬逡巡したが、今目の前にいる生きている者への気遣いを口にした。
少年は何も言わず、少し前を歩く青年をぼんやりと眺めながら歩き出した。
そんな会話も無いまま10分ほど歩いていると、不意に前を歩く青年が立ち止った。
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