放課後

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「ん?まぁ、そうだが……、」 「じゃあ、合格だね。紗希、今初めてこっち側に来れたんだから不恰好だったとしても出来たって褒めてやってよ。」 首を軽く傾げて甘えたように柔らかく言う修平に、先生も苦笑いを浮かべながらも頷いた。 「ま、まぁ、確かに、そうだな。おおいに進歩だ。わかった。南谷、帰っていいぞ。お疲れさん。」 「あ、はい!ありがとうございました。」 心の底から嬉しさがこみ上げた。 跳び箱が跳べた嬉しさと、修平が出来たと認めてくれた嬉しさと。 「修平、ありがとう。」 着替えを済ませ、帰り道。 ふぁー、ぁ、と欠伸を噛み殺す修平の横顔に呟いた。 「んーん。ってかさ、やっぱり紗希は人魚なんだよ。」 唇を軽く結び、少し考えるような仕草をして修平は一人で納得をする。 「なんで、そこでまた人魚が出てくるの。」 泳いでいる時なら分かる。 でもなぜ、今日の跳び箱からその言葉が出てくるのか。 「だってさ、なんかバタバタもがいて。人魚っていうか魚?水がなくてバタバタするじゃん。魚って。紗希の跳び箱ってそんな感じ。ププッ…。」 言いながら修平は笑い出す。 「失礼な!」 柳原修平ってこんな奴。 私を跳ばせてくれた言葉も、受け止めてくれた水泳で鍛えた広い肩幅と逞しい腕も。 同じ高校生なのに、驚くほど大人でドキドキするのに。 次の瞬間は、私をからかって喜んで、まるで少年のよう。 「なぁ、紗希。」 「ん?」 見上げてすぐに重なった唇。 それは、いつもより少し長くて。 離れた時、少し寂しく感じるような甘いキス。 「頑張ったご褒美。もっとする?」 ニヤッと屈託なく笑う修平。 「修平がしたいんでしょ?」 「えー、俺にご褒美は?」 立ち止まって、背伸びをして。 届いた唇に、私は幸せを噛み締めた。 ーーEND
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