《1》

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  「どこか、いい制作会社さんを知りませんか?」 神谷先輩にそう持ち掛けたのは、上司からの依頼があったからだ。 私に「女の化粧品だしな。お前もやりたいだろう?」なんて恩着せがましく言ってきたのを思い出す。 ただ、自分が手一杯なだけのくせに。 「女性用の化粧品か……だったら」と言って、先輩はすぐに動いてくれた。 紹介された会社の名前を見ても、特にピンとは来なかった。『+D』か、耳にしたことはあるわね、くらいのもので。 けれど、会議室で対峙したメンバーの中にの一人に、私は目を見張った。 長瀬恭だ。 間違いない。新人賞を獲った、注目の若手。私の好きなあの広告を作った人……! 「御園京香です。はじめまして」 声が震えそうになった。興奮で、かもしれない。 目の前に、メディアを通してしか見たことのなかった憧れのクリエイター。 私がおかしいんじゃない、緊張するのは当然だと思う。 綺麗な顔。柔らかい物腰。理路整然とした説明。落ち着いた声もいい。 ……写真で見るより、ずっといい男だわ。 .
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