《1》

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  「データ類に関しては、後ほどメールでお送りしますので」 帰り際に、私が長瀬恭の方を見つめながら語りかけた言葉にさえ……返事をしたのはこの女だった。 「お願いします」 微笑む彼女に、言い様のない気持ちがわき上がってくる。 何を、当然のように。と。 彼女を先頭に、深いお辞儀をした後で、彼らは出ていった。 長い廊下を颯爽と歩く三人の姿、その背を睨みつけてしまうのも無理はないと思う。 ……何なのよ、あの女は。 許せなかった。 そう、とにかく許せなかったのだ。 何の苦労もしていなさそうな、能天気な顔。 仕事を頑張っていると見せつけるような素振り。 なのにしっかり男の視線を奪って得意気になっているなんて。 努力も何もしないでそんな風に笑っているだけのくせに。 憧れの先輩や注目のクリエイターたちにあんなに優しく受け入れられているなんて。 許せない。 “オンナ”を感じさせないことを武器にしているくせに、“オンナ”として仕事をして構われていることが。 ……“私”を、否定されているみたいに、感じたからかもしれない。 .
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