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動きがあったのは、それから約一時間半後。
出先で携帯に入った着信は、知らない番号からだった。
固定電話だということだけはわかったけれど、登録していないもの。
思い当たるのは、+D社。だとしたら、長瀬恭からだわ。
そうアタリをつけて出る。しかし。
『お世話になります、+Dの羽村と申しますが』
耳に飛び込んできた女の声に、思わず顔をしかめてしまった。
「……あ、羽村さん、ですか? 先ほどはどうも」
『こちらこそ。早速なのですが、いただいたデータの件で……』
私の硬い声にも気付かず、彼女はサクサク話を進めていく。
足りないデータの送付依頼、それから確認。
簡潔だけれど、不快さは増すばかりだ。
「確認します」とだけ返してすぐに切ろうと思ったら、彼女は『あの』と切り出した。
『今後は私が窓口としてやり取りさせていただきますので、よろしくお願いします』
「え?」
何を言っているの、この女は。
メールを見なかったの?
長瀬恭にだけ宛てたあのメールを見ても、自分が自分がと前に出てくるつもりなの?
唖然としている私に、電話の向こうの彼女は続ける。
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