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怒りで目元がぴくぴくと震え始めたのを感じる。
駄目だわ、こんなことで表情を崩すなんて、私の美学が許さない。
とにかく電話を切ってしまいたかった私は、最後にもう一押し、彼女に突き付けてやろうと口を開いた。
「……ええ。では、今後はccに……、あら?」
『どうかなさいましたか?』
わざとらしく音を立て、鞄を探る仕草に気付いたのだろう。
羽村という女が尋ねる声に、私はしおらしく答える。
「あ、ええ……あの、申し訳ないのですが、羽村さんのお名刺をどこかへやってしまったみたいで」
『えっ!?』
ひっくり返ったような不快な音が耳を通り抜けていった。
鬱陶しい声だわ。聞きたくもない。
「すみません。探せばあると思うのですが」
口だけの謝罪を述べながら、私は彼女の名刺を指先に挟み、ひらひらと弄った。
グラフィックデザイナー、羽村澪。
そんな肩書きと名前がゆらゆら揺れる。ふふ、滑稽だわ。
小さく鼻で笑ってから、私は言う。
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