《1》

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   「では、長瀬さんにお願いできますね?」 私はわざとらしい微笑みを浮かべ、彼女をまっすぐ見据えた。 ああ、これでやっと彼と仕事ができる。 満足だった。ようやくこの面倒くさい女を外して仕事ができる。私の仕事を全うできる。 本当に、嫌な女。手間かけさせるばかりでなってないわ。 手元にあるデザインを…… 綺麗だ、なんて思った自分が悔しい。損した気分よ。 勝利を疑いもしなかった私に、羽村澪は何故か笑顔を返してきた。 「すみません。あいにく、長瀬にも都合がありまして……」 そう切り出した彼女は、大げさなくらい笑みを深くして、私に言う。 「スケジュールが決まり次第、すぐ教えていただけますか? 他にも男性はおりますので、相談してみますね」 ……ここまできて、まだ足掻く気? どこまで私の邪魔をするのよ。この女は。 けれど、ここで食って掛かるのは得策ではない。内藤さんや辻さんがいる。 仕方ない、とばかりに私は答えた。 「……わかりました。早急に手配しますので、長瀬さんにもよろしくお伝えください」 「はい。お願いします」 いいわ、どうせ彼女は長瀬恭に依頼することになる。いずれはね。 それまでせいぜい、一人気張っていればいいわ。 .
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